「それで? 聡くん、今日ウチに来るんだって?」
「え?」
一瞬言葉を失う聡。すかさず瑠駆真が携帯を引き寄せる。
「あ、はい、行きます」
「あら? その声は瑠駆真くん?」
「はい」
「やだぁ〜 おばさん逢いたいっ」
…………………
「いつ来る? 今来る? いやんっ 楽しみぃ」
「そっ そうです…… ね」
と言いながら、なぜだか聡に目で助けを求めてしまう瑠駆真。
「じゃあおばさん、これからお昼作って待ってるわんっ」
「あ、お昼はもう食べたので」
「あらやだっ もうそんな時間だったの?」
素っ頓狂な声の後ろから罵声が飛ぶ。
「バカッ 勝手に呼ばないでよ。お母さんは黙って寝てればいいのよ」
「コラッ 美鶴。母親に向かってバカとは何よ。それにアタシ、三時から出掛けなきゃいけないんだから」
「だったら三時まで寝てなさいよ」
「あぁん、今から寝たら寝過ごしちゃうかも」
「勝手に寝過ごしてろっ! ちょっと、聡? 瑠駆真? 聞いてる? 来るなよ、絶対に来ないでっ!」
「絶対に来ないでって…」
「お前なぁ、それはないだろ?」
今すぐにでも行きたいのに、詩織の登場でなんとなく気が殺がれてしまい、強引に行くとは言い出せない。そんな相手に、美鶴はとにかく来るなを連呼する。
「来るなよ、絶対に来るなっ!」
「なんでだよ?」
「お前らが来ると部屋が騒がしくなる。これ以上お母さんがバカになったら、この部屋大変な事になるっ!」
「ちょっと美鶴。さっきからバカバカって、ずいぶんと失礼じゃない? ねぇ 聡くん? 待ってるからねぇ」
「来るなっ! お母さん、勝手に呼ばないで」
「いいじゃない。私が会いたいんだから」
「私は会いたくないのぉぉぉぉぉっ!」
この場合、行くと言えばいいのだろうか? 行かないと言えばいいのだろうか?
瑠駆真に目で問いかけると、相手は曖昧に眉を寄せるだけ。
「美鶴、あなたねぇ〜 どうして私と聡くんと瑠駆真くんの逢瀬を邪魔するワケ?」
逢瀬…… ですか。
「くだらない事言ってないで、とにかく電話を返してよっ! バカっ!」
「あ、またバカって言ったわね」
「言ったわよ」
親子喧嘩ですか。
「そういう事言うと、こっちだって容赦しないわよっ」
「上等じゃないの。何を容赦しないって言うワケ?」
母の言葉に勝気で応じる美鶴の視線。だが詩織は、これやったりとばかりにニヤリと笑う。そうして、携帯に向かって大声をあげた。
「聡くーん、瑠駆真くん。美鶴のブラジャーのサイズ、教えてあげようかぁ〜?」
「なっ!」
「いっ!」
…………………
「ちょ…… ちょっとぉぉぉぉぉっ!」
美鶴の叫びは、数歩はなれたツバサとコウにもしっかり聞こえた。
「なんだか、荒れてるな」
コウのつぶやきにツバサは苦笑い。
「なんでそうなるのよっ! やめなさいよ。バカ、ヘンタイっ!」
「あ、またバカって言ったわね」
「言うわよ。言うでしょうっ 普通」
「ブラのサイズ、知られたくなかったら黙ってなさい」
「だから何でそうなるのよっ! くだらない三流小説みたいな展開にもってかないでよっ!」
「やだぁ、これでも黙らないの? しぶといわねぇ〜 だったら…… 聡くん、瑠駆真くん、何だったら美鶴のスリーサイズをババンッと教えちゃいましょうかぁ?」
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